No.165-1 ギル・シャハムのこと その1
 
 
 ギル・シャハムが21世紀を代表するヴァイオリニストになるであろう、というのはけっして大袈裟な表現ではないと思う。ギルは間違いなく天才だとも思う。'97年の大晦日、アバド指揮ベルリン・フィルのジルヴェスター・コンサートで、ギルはサラサーテの「カルメン幻想曲」を演奏した。聴衆の興奮、大きな拍手、歓声。テレビの前にいたぼくも思わず身を乗り出して、ちょっと猫背でぴょこんと照れくさそうに御辞儀した青年に感動した。
 ギルの両親はイスラエル人。亡父ヤコブは天体物理学者、母メイラは遺伝学者で、2人がアメリカに滞在中にギルが生まれた。音楽を愛する両親のもとでギルは育った。
  今回の来日公演ではオール・ブラームス・プロをギルは提示してきたが、異なった趣の作品も聴かせてほしいというわれわれのリクエストに応えて、バッハのソナタ1曲と、あの「カルメン幻想曲」を入れてくれた。
  ただ、今回の「カルメン幻想曲」は、聴いてみるまではどんなものか、実はぼくはよくわかっていない。CDで聴けるギルの「カルメン幻想曲」は、前述のアバド/ベルリンフィルとのオケ版(POCG-10074)、ロハン・デ・シルヴァ(ピアノ)との共演(15歳の録音!)(POCG-4122)によるサラサーテ作曲のもの、本日の共演者、江口玲(ピアノ)とのアルバム「ザ・フィドラー・オブ・ジ・オペラ」(同・POCG-10034)で、こちらはハンガリーの作曲家、イェネー・フバイ(1858-1937)によるものの計3種である。本日の公演プログラム(300円)を見ると、「今回は演奏者の希望により、サラサーテ〜フバイ編曲版を使用します」とある。神原音楽事務所(招聘元)のMさんの話によれば、ギルが両方を採り入れて組みなおしているとのことで、これは聴いてみてのお楽しみ、ということにしておきたい。(*当日の感想へリンク)
  それにしても、ギルの演奏はなんと心地よいことか!1699年製のストラディヴァリウスを自在に操る。正確なテクニックはもちろん、「雨の歌」などで聴くことができる、しっとりとした叙情、澄み切った美しい高音と艶のあるたっぷりとした豊かな中低音に聴き惚れてしまう。
 (ギル・シャハムのこと その2へつづく。)
                               (2000年11月19日 ようよう ま 記)